1月30日(月)

布団から出るのが耐えられないくらいの寒さ。暖房を全開にして、部屋をある程度暖めてからやっとの思いで起き上がり支度をする。きっと今月は電気代もガス代もアホ高いのだろう。分かってはいてももはやこの寒さではやむを得ない。

今日も売上は惨憺たるものだった。この寒波で皆足が遠退いてしまっているのだろうか。終日レジが混むこともなく、粛々と溜まった仕事をこなし続けた。

人の少ない店内で黙々と作業をしているとつい物思いに耽ってしまう。普段はあまり触る時間のない専門書の棚をいじりながら、ふと年老いた両親のことが頭に浮かんだ。

いつからだろうか?父親とまともに口を利かなくなったのは。

実家に帰るのは大抵休みの前日の夜だ。そこで夕飯を食べながらビールを飲むのがいつものパターンだった。すると毎回きまって二階から父親が降りてくる。その足音が聞こえてくると若干の緊張を覚えるのもいつもの流れだった。

『おう、お帰り。』

『はい、どうも』その言葉に答えながら軽く会釈を返す。

これでやり取りは終了だ。その他に何か言葉を交わすことは一切ない。父親はおずおずといった感じでまた二階に戻っていく。

日中もほとんど顔を合わすことはない。どちらかがリビングにいる時はもう一人は自分の部屋で過ごす。そのパターンがいつからか定着してしまった。

どうしてここまでこじれてしまったのか。その要因を書き出すと長くなるのでやめておくが、根底にはやはり引きこもりの姉の存在があるのは間違いない。

会釈を返した後、横目で父親のほうを見た。久しぶりにしっかりと見たその姿はもう完全にお爺さんだった。去年の秋で80になっているはずだ。数年前に大きな病気をして丸々とした体は随分小さくなってしまった。今はまだある程度は元気そうだが、正直なところいつどうなってもおかしくない。

今の関係のまま父親が死んだら、俺はきっと後悔するのだろう。

そこまで考えたところで、棚をいじる手が止まった。

結局、こんな状況にまで持っていったのも全て自分だろう。話しかけられても無視して、顔を合わせたくないから部屋に閉じ籠って、一方的に拒絶していった結果が今なのだ。俺はいつだってそうだった。合わないとか嫌いとか少しでも思ったら最後、向き合おうと努力することはせずひたすら距離を取り、二度と歩み寄らない。そうやって今まで何人縁を切っていっただろう。

また同じことを繰り返すのか。

作業が手につかなくなり、棚の前でしばらく立ち尽くしていた。周囲に人影はなく、インストの軽薄なBGMだけがずっと鳴り続けている。

急ごう、もう残り時間は少ない。

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