破滅に向かって~書店員日記~

アラフォー独身書店員のブログです。 よろしくお願いいたします。

2024年05月

5月30日(木)

休日。

何か夢を見ていたようだった。寝惚けた頭で目を覚まして、数秒後に今日が休みだったことを思い出した。

ああ、今日はわざわざ電車を乗り継いで出勤しなくていいんだ。赤の他人に話しかけられなくていいんだ。閉店まで長時間店に拘束されなくていいんだ。

誰とも会わなくていいんだ。

結局この数秒間が休日で一番心安らぐ瞬間かもしれない。

いつもの喫茶店に行くとテーブル席は全て埋まっていて、カウンターを案内された。注文を済ませ昨日の会議のことをぼんやりと考えていると、隣の席に30代くらいの男がやってきた。乱雑に椅子を引き、ドカーッと勢いよく腰を下ろす。その震動がグラスの水を大きく揺らした。

ひどく太った男だった。ある程度席と席の間は余裕ある作りになっているはずだが、横にいるだけで圧迫感が凄い。男は即座に呼び出しベルを押し、若い女性店員に注文を始めた。

『ミルクなし加糖のアイスコーヒーLLサイズに、モーニングはAセットを2人前で。あとコールスローもプラスして』

見かけとは裏腹に甲高い声だった。朝からよく食う野郎だと内心呆れていると、男は店員にこう付け加えた。

『ミルクはなし、加糖ね。間違えないように気を付けなさい』

なにが“気を付けなさい”だこいつは。偉そうに。店員のことを召使いとでも思っているのだろうか。女性店員も普通に対応していたが、きっと内心では呆れているに違いない。

接客業をしていると、どうしてもこの男のような勘違いした客にエンカウントすることがある。まともに取り合っても仕方がないので、無の心でやり過ごす。表情も変えず、ロボットのように最低限の返事だけで。20年やっていればそれくらいのスルースキルは身に付くものだ。

心を乱すものからはそっと距離を置こう。俺はノイズキャンセリングイヤホンを装着し、音楽を再生した。

数十分後。会計をしようと席を立つと、横の男はちょうど店員に追加の注文をしているところだった。なんとなく内容が気になりイヤホンを外す。

『アイスコーヒーLLサイズおかわりで。また同じようにミルクなし、加糖ね。今度も間違えないように気を付けなさい』


一体どれだけ飲めば気が済むんだよ。

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5月29日(水)

今日は会議だった。

特につつかれることもなく終わったが、また色々と店でやらなければいけないことがたくさん出てきた。売場の変更、業務ルールの見直し、その他諸々…。面倒なことばかりで気が遠くなるが、少しでも売上を伸ばしていくためには立ち止まっている暇はない。

相変わらず気分も体調も絶好調!というには程遠いけれど、やれるだけのことはやっていこうか。

時計を見るとまだ18時過ぎ。外はまだ明るく、このまま帰ってしまうのもなんとなく寂しい気がした。無性に酒が飲みたくて、たまたま見かけた立ち飲み屋に入ってみる。瓶ビールとつまみを適当に注文してスマホを取り出すと、意外な人からのLINEが入っていた。

『お久しぶりです』

それは3年前、図書館司書に転職するため退職した元店長からのものだった。20歳上の男性で、在職中は仲良くしてもらっていた人物だ。LINEによると現在は別の図書館で働いているという。人間関係も良好で給料もアップし、気持ちよく働けているそうだ。

『それは良かったですね!』

こちらの近況も軽く添えて返信を打つ。退職以降はほぼ音信不通で、正直なところもう2度と連絡を取ることもないのだろうと思っていた。ほんの何往復かのやり取りだったが、久しぶりに連絡をもらえたことが素直に嬉しかった。

ただの気まぐれだったのかもしれないけど、俺のことを気にかけてくれる人もいるんだなあ。

頑張れそうな気がしてきた。

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5月28日(火)

相変わらず仕事帰りはゆらゆら帝国『ひとりぼっちの人工衛星』を聴き続けている。この情緒的になりすぎない、あくまで平熱な感じが仕事終わりの身体にちょうど良い。

『静まれ嵐 静まれ暴力 静まれ意味のない争い』

いつになくストレートな坂本慎太郎の歌詞が胸に迫ってくる。この曲を聴くといつも、実際に自分が人工衛星になって地球を俯瞰で眺めているような気分になる。世界中の争いなんて全て無くなってしまえばいいのに、とも思う。どうやらそんな日は永遠に来そうにないけれど。

この曲が収録された『空洞です』というアルバムは、現在では邦楽ロックの最高傑作として評価されているという。確か発売されてすぐに買ったはずだが、その時は何度か聴いただけで放置してしまっていた。当時の自分の耳ではよく意味が分からなかったのだ。だからアルバム終盤にこんなにいい曲が入っていることに最近まで気が付かなかった。


雨が降り続いて、いつもの平日以上に店は閑散としていた。夕方ごろようやく小雨になり少し持ち直したが、結局は平凡な売上で終わってしまった。おかげで会議の資料をまとめることが出来たが、これだけ低い売上が続くと気分も滅入ってくる。いい本を仕入れて確固たる売場を作り上げて、それでなんの反応もないのはやっぱり寂しい。

朝の主婦たちはもうほぼ全員がマスクを外した。素顔で普通に接客をしているのを見て、随分懐かしい感覚だと思う。そりゃそうだろう、改めて考えてみると実に4年ぶりのことなのだから。

主婦たちのマスクなしの顔、それはやはり4年という月日の重みをいやが応でも思い知らされるものだった。

もちろん、そんなことを思う自分の顔もしっかり4年分年をとっている。分かっているからこそ、俺は今もマスクを外さない。


5月27日(月)

仕事終わり。

レジ閉めでちょっとしたトラブルが発生し、あれこれ調べているうちに時間を大幅にロスしてしまった。結局、いつもより数本後の電車で帰宅中だ。

今日もまた頭を抱えたくなるような売上だった。GW以降平日が壊滅的に悪い。5月はまだあと数日あるが、この時点で目標売上に到達出来ないことが決定的となった。

もう少し早く判断してシフトを削減するなりすれば良かった。まさかここまで下がるとは思ってもみなかった。来月はもっと慎重にならなければいよいよまずい。

売場の改善、不振分野のテコ入れ、アルバイトの教育…やるべきことは山ほどある。

はー、めんどくさい。
全部ほっぽらかしてどこか遠い町にでも逃げてしまいたいものだ。沖縄あたりに飛んで1年ほどフラフラしながら生活したい。

透き通る様な青空と、三線が奏でるのどかな旋律と。

まあそんなことをする度胸は全くないのだけれど。

品出しと注文を概ね終わらせた後は週末に行われる会議の資料を作っていた。締め切りが迫っている。これこそ面倒臭いの極致だが、勢いで手抜きなものを作ってやり玉に上げられるのも癪だった。

途中どうしてもしっくりこないことがあり、今回の会議を仕切っているマネージャーの○○に聞いてみることにした。少し前にブログにも書いた例のスネ夫男だ。出来れば関わりたくないが背に腹はかえられない。○○の勤務店に電話をすると、一発で本人が出た。

『お疲れ様です、破滅です。会議の資料のことでお聞きしたいことがありまして…』

『珍しいね、君がかけてくることなんて滅多にないことじゃないかンフフゥゥ』

受話器の向こうからお馴染みの誘い笑いが聞こえた。何度聞いてもこの笑いに慣れることはないな、と思う。

『いえいえ…』

『聞きたいことって、児童書のことだろ?』

『…そうですね』

勘のいい男だ。今期の売上の中でも児童書は特に下がり幅が大きく、どう対策を取っていくか発表することになっていた。敏腕主婦Lさん(元児童書担当)が退職した影響は顕著に出ている。

『Lさんが辞めてからなかなか苦労していまして…』

『ンフフゥそうだろうね。きみはLさんLさんって会うたびに言ってたもんねぇンフフ。きっと信頼しているんだろうなって思っていたよンフフゥフフゥ』

いったい何がおかしいのか、○○は気色の悪い誘い笑いをしつこいほどに繰り返していた。さっさと電話を切ってしまいたい衝動を抑えつつ、話を聞くことに専念する。


ようやく話が一段落し、礼を言いながら切ろうとすると、○○は最後にこう言った。

『そういえば、そっちの店やめた✕✕っていただろぉフヘヘェ?あの子今、A駅の100均でバイトしてるんだよ。知ってたかいウフフゥムフフゥホヘヘェ』

電話は切れた。相も変わらず気色の悪い男だ。一体どこで仕入れてくるのか、○○は社内のゴシップネタに異様に詳しかった。誰がミスした、誰と誰が険悪だ、誰が付き合った、別れた…それらをふとした会話の中で他の社員たちに吹聴するのである。

絶対に下手なことは言わないようにしよう、改めてそう思った。この先万一ブログの存在があの男にバレたなら、それが完全削除する日になるのだろう。

『ンフフゥこれ、もしかしてきみのことじゃないかい?
は・め・つ・くん?』

殺すぞコルァァァァァァァ!!!!!!

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5月26日(日)

今日もようやく仕事が終わった。

ああー、疲れた。それにしても何なんだこの暑さは。夏じゃねーかよ完全に。5月でこれなら本格的に夏が来たらどうなってしまうんだろう。考えただけでもうんざりしてくる。

そうこうしているうちに今年も半分終わる。あっという間に棚卸しの準備に雪崩れ込んでいくのだろう。それが終われば秋が来て、いつの間にか一年の終わり。時間の流れが早すぎて全く追い付いていけない。

働いて疲れて、いつまでもそれだけを繰り返して。この果てに何があるというのか。

何にもない。

希望はどこに転がっている?

土日の売上げはまあ及第点といった感じだった。あとは残りの平日でどこまで目標数値に追い付けるか。来週はまたもや会議で今はその準備をしているのだが、色々と店の改善点も見えてきている。なんとかいい方向に変えていければいいのだけれど。

会議までは休みなしの連勤。ブログに打ち込むことも出来そうにない。

ひとまず今日は、ゆらゆら帝国の『ひとりぼっちの人工衛星』を聴きながらアパートまでの道を歩こうと思う。

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