破滅に向かって~書店員日記~

アラフォー独身書店員のブログです。 よろしくお願いいたします。

2025年05月

鏡で老けた自分の姿を見ていると気が滅入るようだった。もう服などどうだっていい。きっと試着をしたところで何一つ似合わないだろう。

Oのほうをチラリと見ると、まだ店員とあれこれ話し込んでいるようだった。何やら2種類のジャケットのどちらにするかを迷っているようだ。しばらくは放っておいても大丈夫だろう。店を出て軒下に立ち、目の前を通過する人たちをぼんやりと眺める。アウトレットに来るだけあって皆服装には気を使っているように見えた。彼らのほとんどが家族連れやカップルで、男同士、ましてや中年の2人連れなどほとんどいない。またしても自分がひどく場違いな存在のように思えた。

『おい、破滅!ちょっと見てぇや!』

なんともいたたまれない気分になっていると、店の中からOが俺を呼ぶ大声が聞こえてきた。仕方なく戻ると、Oが先程のジャケット2つをこちらに見せながら笑顔で言った。

『これ迷ってるんやけどさぁ、どっちが似合うと思うよ?』

お前は彼女か‥。色は2つともベージュで、濃いか薄いかだけの違いのようだった。正直なところどっちだっていい。自分で決めりゃいいじゃねえか‥内心呆れたが、無下にすることも出来ず律儀に答える。

『うんまあ、どっちも似合うんじゃないか?』
『おぅ、そうけぇ?』

俺もなぜ彼氏みたいな受け答えをしているのだろう。この状況に気恥ずかしさを覚えたが、Oはそんなことを頓着する様子もなく店員と楽しそうに話し続けている。いいなあ、と思う。俺とは全然違う。同じ独身中年だが、こいつには卑屈なところが全く無い。

自分が情けなかった。ネガティブで、常に他人の目ばかり気にして。

結局Oは散々迷った挙げ句、片方のジャケットを五万で購入した。店員に見送られながら満足そうに店を後にする。

俺は最後まで何も買わなかった。

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5月6日(火)つづき

雨といえどもさすがゴールデンウィーク最終日だ。アウトレットは多くの人たちで賑わっていた。到着したのは昼前だったが、駐車場には自分たちの後も車が次々と押し寄せてきていた。

しばらくは適当に目についた店を見て回っていく。ゴルフ用品店、革製品、時計屋‥Oは我先にと店に入ってはその度に店員たちとあれこれ話していた。さすが営業をやっているだけあって全く気後れする様子がない。俺はそんなOの姿を少し離れた場所から眺めていた。

何か良いのがあったら買ってみてもいいかな、そんなことを思っていると、ふと店内の鏡に自分が映っていることに気が付いた。試着用の縦長のものだ。なんとなく気になって自分の全身を映してみる。

そして失望した。

太いほうれい線、むくんだ顔、シワの増えた目じり、カットに行けず醜く膨らんだ髪、弛んだ身体‥そこにいたのはどこからどう見ても冴えない中年そのものだった。

なんだこれ、と思った。“ぱっとしない”なんてもんじゃない。360度どこから見ても良いところなんて一つもなかった。こんな奴が誰かから愛されるわけがないのだ。ただただ時間だけが流れ、どうしようもなく年をとった自分がそこにいた。

今すぐ帰りたいと思った。
こんなところに来るべきではなかったのだ。大人しく部屋で寝ていれば良かった。

俺は昔から自分の容姿に強いコンプレックスを抱いている。こんな不良品の身体は捨てて魂だけの存在になりたい‥常々そう思ってきたが、今日その思いはますます強くなった。

残った身体はメルカリかヤフオクあたりで売りにだせばいい。
まあ、買うやつはいないだろうが。






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時間は少し遡り、5月6日(火)。

ゴールデンウィーク最終日、この日は連休中唯一の休みだった。

いつものように何もせずゆっくり過ごそうと思っていたのだが、直前になって地元の友人“O”に誘われ買い物に付き合うことになった。なんでもアウトレットで服を見たいのだと言う。深く考えずにOKしたが、それまでの連勤と睡眠不足のおかげで当日は目が覚めても身体は疲れ切っていた。おまけに外はひどい雨だ。

アウトレットなんてもうどうでもいいからずっと寝ていたかった。そもそも服なんて今は全く欲しくもない。どうしてOKしてしまったんだろう。軽はずみな判断を俺は心の底から後悔した。

それでも約束してしまったものは仕方がない。やっとの思いで支度をして、待ち合わせ時間ギリギリに駅へたどり着いた。ロータリーには既にOの車が停まっている。近付いて手を挙げると、Oは軽いクラクションで応えた。

『お待たせ』
『おう』

助手席に乗り込んでシートベルトを締める。カーステレオからはチャゲアスの『めぐり逢い』が流れていた。

『チャゲアスか、懐かしいな』

『そうやろ?Spotifyで好きな曲適当に放り込んだプレイリスト作ってそれランダム再生してるねん』

そしてOは、『もう最近の曲なんて全然聴いてへんよ。なーんも分からへん。学生の頃好きやったの聴き直してばっかりやわ』と言った。

しばらくお互いの近況について話していると、何となく聽き覚えのあるイントロが流れてきた。おや、これは‥と思っていると予想通り特徴的なあの声。

井上陽水『リバーサイドホテル』だ。

Oがニヤリと笑いながら言う。『最近めちゃくちゃ久々に陽水聴いてるのよ。やっぱええよなあ』

そして曲がサビにさしかかると、Oは一緒になって歌い始めた。


“ほってるは りばぁ〜さぁい〜
かぁわぞい りばぁさぁい〜
しょ〜くじも りばぁさぁい〜
よっ ほっほ るばぁさぁい〜・・


鼻につく歌だった。
モノマネがやけに似ているのも癪に障った。

Oは2回目のサビも気持ちよさそうに歌い上げると、ドリンクホルダーの缶コーヒーを一口飲んで吐き捨てるように言った。

『“川沿いリバーサイド”ってなんやねん。同じ意味の言葉続けてるだけやんけ』

つづく

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5月27日(火)


系列店へ出張へ。


それにしても今日の店は遠すぎて参った。電車の乗り継ぎのタイミングが悪いこともあり、行き帰りトータルでまさかの6時間超えである。もちろん上からの指示で行っているわけだが、ここまで遠いとさすがに自分は何をやっているんだろうという気になってくる。


このところ出張ばかりだ。何をしているのかというと、大抵は人手の足りない店舗のヘルプである。品出しや問い合わせ対応、レジが混んだらフォロー、その他諸々・・。要するにいつもやっている業務をそのまま行うのだ。


どの店でも慢性的な人手不足が起こっている。そもそも誰かが辞めても昔のように補充がない。自分の所属するブロックでは去年の秋エリアマネージャーが1人、今年の春には社員が1人退職したが、どちらも代わりに誰かが補充されることはなかった。


“今あるものでなんとかしろ”、会社的にはそういうことらしい。


結果、各店の社員が常に駆り出される状況が出来上がってしまっている。


まあ会社の言わんとしていることも分かる。店も次々と姿を消している今の状況で、おいそれと新たな社員を採用することは難しいだろう。このまま減り続ければ社員があぶれてしまうことも充分ありえるわけで。


ならパートやバイトを増やしゃいいじゃねえか、とこれを読む人は思うだろう。もちろんどの店も募集している。だが、応募が来ないのだ。

なぜか?
その理由を往年の“あるある探検隊”風に言うとこうなる。

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『最低時給でこきつかう!!
ハイ!ハイ!ハイハイハイ!!』

これに尽きる。

利益率の低い書店業ではどうしても最低時給で人を雇わざるをえない。それでいてやることは山ほどある。とかくのんびりしたイメージを持たれがちの書店業務だが、実際は日々やることに追われ全く余裕がない。せっかく採用してもそのギャップについていけず、すぐに辞められてしまうことも多々ある。

社員が辞めても補充はなく、バイトの応募も来ない。かくして、常に人が足りず基本的なシフトすら回せない店が誕生するのであった。

帰りの電車の中、俺は秋に退職した元エリアマネージャー(AM)のことを思い出していた。

元AMさん、今どうしてる?
南の島での新生活は順調か?

人件費やら系列店のヘルプやら煩わしいことから1抜けして、悠々自適に過ごしているであろうあなたが俺は羨ましいよ。

5月26日(月)

体調もメンタル的にも最悪な1日だった。

昨晩仕事から帰ってから卵サンドを作って食べた。一度で食べきれなかったので残りを冷蔵庫に入れて今朝の朝食にしたのだが、それがまずかったのだろうか?出勤するなり腹を下し、勤務中に何度もトイレに駆け込む羽目になってしまった。おかげで仕事は全然進まない。

何度目かのトイレを終えてげっそりしながら店に戻ると、本社からのメールが届いていることに気が付いた。その場で中身を確認し、また頭を抱える。

なんでも、現在の勤務店の大幅なリニューアルが決定したのだという。売場の入れ替えなどといった軽いものではなく、什器もほとんどが新しくなり、店内の全ての配置を変更するというかなり大がかりなものらしい。これを機に新たに導入する商品もあるようだ。

『遂にきたか・・』

本来ならこのリニューアルは去年の秋に行われることになっていた。それが諸々の事情で延期になっていたのだが、今度こそ正式決定ということなのだろう。

“勘弁してくれよ・・”

体調がより一層悪くなるようだ。什器ごと丸々入れ替え、これはもう1から店を作り直すようなものだろう。一体どれほどの労力が必要になってくるのか。考えただけでまた腹の虫が疼き出すような気がした。

メールには今回のリニューアルのタイミングで、エリアマネージャーが“接客のユウコ”から“誘い笑いのマサ”に変更になることも合わせて明記されていた。つまり、今後マサと逐一連絡を取りながら計画を進めていくことになる。

最悪、としか言いようがない。

思わぬ急展開が唐突にやってきた。体力、メンタルを同時に削られまくるであろうこの案件、果たして俺はやり切ることが出来るのだろうか。

心穏やかに過ごせる日なんていつまで経っても来そうにない。

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