先日、現在住んでいる部屋のことで確認したいことがあって管理会社に電話をかけた時のこと。
『はい、ありがとうございます!』元気な女性の声がすぐ返ってきた。

『すいません、△△の部屋を借りている××と申しますが担当の○○さんいらっしゃいますか?』
『あー、○○は既に退職しておりまして…』
『え…?』

驚きでしばらく声を失ってしまった。聞くと年末で退職したとのこと。今の部屋を借りたのが10月頭だからそこからたったの3ヶ月ほどで辞めてしまったことになる。

『あ、そうなんですね、なんか驚きました。理由は…いや、気になるけどそれは聞いたらダメですよね。』
『そうですね、申し訳ありませんが…』

仕方がないのでその女性に用件を告げて電話を切った。

それにしても意外だった。もちろん働いていれば退職することもあるだろう。しかしその担当、自分より五歳も年下の男性だったが、大変熱心に部屋探しを手伝ってくれたし気になることをメールすると即座に返信もくれたし、物腰も柔らかく自分の中で印象は非常に良かった。現在の部屋には満足しており、この人が担当になってくれて良かったと何度も思ったものだ。

何より、部屋探し中の車内では仕事のやりがいを熱心に語っていたじゃないか。『こうやってお客様に喜んでいただける、僕にとって本望ですよ!』なんてニコニコ笑っていたのが芝居だったとは到底思えない。

とはいえ、たった数回しか会ったことのない人だ。本当のことなんて何が分かるというのか。内心は退職する手続きを着々と進めていたのかもしれないし、客と部屋探し中は切り替えてキャラを作っていたのかもしれない。単に独立して自分の会社を立ち上げたのかもしれないし、もしくは不祥事を起こして解雇になったのかもしれない。

いくつもの可能性が脳裏に浮かんでは消えていったが、真相は当然分からない。はっきりしているのはあの人に会うことはもう二度とないということだけだ。

不動産会社のホームページを見ると、スタッフ一覧の中から彼の名前は消えて、別の男性が新たに加わっていた。

『いい部屋を紹介してもらってありがとうございました。』そんな風に感謝を伝えておけばよかったな。