11月28日(月)

今日もなんとか仕事が終わった。

いつもなら来客も少なく、溜まった仕事をまとめてやっつけられる月曜日のはずだが、一日中落ち着かず過ぎていった。皆月末締切の商品券を駆け込みで使いたいのだろう。レジには何度も列が出来、その度にアルバイトが応援要請ベルを鳴らしていた。レジフォロー、ラッピング、問い合わせ対応、その他諸々…。あっという間に時間は過ぎていった。

忙しいのは疲れはするが、その間は余計なことを考えなくていいから助かる。残りの人生のこととか、家族のこととか、年齢のこととか、もう会わない人のこととか、どうしても深刻にならざるをえないことを。

夕方になり、それまで絶えることの無かった来客がいったん落ち着き一息ついた時、ふと頭をよぎったのは先日の東京駅でのことだった。 

待ち合わせのために田原が指定したのは、偶然にも一年半前あの人を最後に見送った場所だった。忘れるはずもない。あの日の朝、駅前の交差点を渡って彼女は仕事に向かったのだった。

田原との待ち合わせは12時半。ちょうどランチタイムを迎えたであろう、大勢のビジネスマンやOLたちが辺りを行き交っていた。
偶然あの人が通りかからないだろうか?
もし会えたなら何て声をかけるだろう?

そんな馬鹿げた妄想を本気で考えてしまった。

もちろんそんなことが起こるはずもなく、すぐに田原が現れて現実に引き戻されたのだった。

これだけ時間がたったのにナイーブ過ぎると自分でも思う。けれども、自分の心の中にまだあの人は住んでいて、消えてほしくないと願っている自分がいた。

夜になり、おでん屋で酒の勢いも手伝ってそのことを田原に打ち明けると、少し黙り込んだ後で『気持ちは分かるけど、そろそろ前を向いたほうがいいんじゃないか』と静かに言ったのだった。


images (4)