1月24日(水)

いつも通り、だるい体を引きずりながら昼前に出勤するとパート主婦Iさんが近づいてきた。挨拶する間もなく話しかけてくる。

『破滅さん、異動するって本当ですか?』

きっと四回生バイトの清水さん(仮名)から聞いたのだろう。

『ええ、来月の半ばくらいになると思います。』

隠すようなことでもないので正直に答えると、Iさんは『そうですかー、寂しくなりますね。』と言った。お世辞とは分かっていても悪い気はしない。まあまあ、あと一月もないですがよろしくお願いしますと無難に返しその場を離れた。

入荷した商品が載せられたブックトラックを整理しながら、Iさんも随分と年をとったなと思う。自分がこの店に赴任した直後に採用されたから既に10年選手である。年齢は確か50代前半。こないだ話した時は最近身体の節々が痛くてたまらないとしきりにぼやいていた。

娘が二人いて、熱狂的なタイガースファン。シーズン中は度々甲子園に家族で応援に行くという。

そこまで考えて、二の句が継げなくなっている自分に気付いた。結局俺は10年も一緒に働いている人のことを何にも知らないのだ。もっと色んな話をしておけば良かったと今になって思うが、もう後の祭りだった。

そうこうしているうちに昼休憩の時間になった。

ロッカーからスマホを取り出し確認すると、元従業員・敏腕主婦LさんからのLINEが届いていた。来月の送別会の開始時間についての相談が書かれている。『ありがとうございます、それで大丈夫ですよ』と返信した後、ふと思い立ち『この送別会のこともブログにしっかり書き残したいと思います!』と軽口を叩いてみた。何も起こらないこのブログにとっては格好の大イベントである。ネタにしない理由はない。

向こうは休日なのか返事はすぐに返ってきた。

『いい加減URL教えてくださいよ。そうじゃないと徹底的に検索かけますよ~笑!』

仮にLさんが本当にこのブログを見つけたとしても一向に構わない。読まれて困るようなことは何も書いていないし、異動すればもう会うこともないのだ。何一つ支障はない。

ただ、悪ふざけで決めたブログのURLだけは見られたくないなと思った。何しろ『ハードセックスクレイジー』である。いやあんたハードどころかノーマルセックスすら何年もしてへんやないか!と突っ込まれても仕方がない。全くもって恥ずかしい限りだ。まあ、こんなどうしようもない話もLさんなら笑ってくれるとは思うが。

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