5月30日(木)
休日。
何か夢を見ていたようだった。寝惚けた頭で目を覚まして、数秒後に今日が休みだったことを思い出した。
ああ、今日はわざわざ電車を乗り継いで出勤しなくていいんだ。赤の他人に話しかけられなくていいんだ。閉店まで長時間店に拘束されなくていいんだ。
誰とも会わなくていいんだ。
結局この数秒間が休日で一番心安らぐ瞬間かもしれない。
いつもの喫茶店に行くとテーブル席は全て埋まっていて、カウンターを案内された。注文を済ませ昨日の会議のことをぼんやりと考えていると、隣の席に30代くらいの男がやってきた。乱雑に椅子を引き、ドカーッと勢いよく腰を下ろす。その震動がグラスの水を大きく揺らした。
ひどく太った男だった。ある程度席と席の間は余裕ある作りになっているはずだが、横にいるだけで圧迫感が凄い。男は即座に呼び出しベルを押し、若い女性店員に注文を始めた。
『ミルクなし加糖のアイスコーヒーLLサイズに、モーニングはAセットを2人前で。あとコールスローもプラスして』
見かけとは裏腹に甲高い声だった。朝からよく食う野郎だと内心呆れていると、男は店員にこう付け加えた。
『ミルクはなし、加糖ね。間違えないように気を付けなさい』
なにが“気を付けなさい”だこいつは。偉そうに。店員のことを召使いとでも思っているのだろうか。女性店員も普通に対応していたが、きっと内心では呆れているに違いない。
接客業をしていると、どうしてもこの男のような勘違いした客にエンカウントすることがある。まともに取り合っても仕方がないので、無の心でやり過ごす。表情も変えず、ロボットのように最低限の返事だけで。20年やっていればそれくらいのスルースキルは身に付くものだ。
心を乱すものからはそっと距離を置こう。俺はノイズキャンセリングイヤホンを装着し、音楽を再生した。
数十分後。会計をしようと席を立つと、横の男はちょうど店員に追加の注文をしているところだった。なんとなく内容が気になりイヤホンを外す。
『アイスコーヒーLLサイズおかわりで。また同じようにミルクなし、加糖ね。今度も間違えないように気を付けなさい』
一体どれだけ飲めば気が済むんだよ。
休日。
何か夢を見ていたようだった。寝惚けた頭で目を覚まして、数秒後に今日が休みだったことを思い出した。
ああ、今日はわざわざ電車を乗り継いで出勤しなくていいんだ。赤の他人に話しかけられなくていいんだ。閉店まで長時間店に拘束されなくていいんだ。
誰とも会わなくていいんだ。
結局この数秒間が休日で一番心安らぐ瞬間かもしれない。
いつもの喫茶店に行くとテーブル席は全て埋まっていて、カウンターを案内された。注文を済ませ昨日の会議のことをぼんやりと考えていると、隣の席に30代くらいの男がやってきた。乱雑に椅子を引き、ドカーッと勢いよく腰を下ろす。その震動がグラスの水を大きく揺らした。
ひどく太った男だった。ある程度席と席の間は余裕ある作りになっているはずだが、横にいるだけで圧迫感が凄い。男は即座に呼び出しベルを押し、若い女性店員に注文を始めた。
『ミルクなし加糖のアイスコーヒーLLサイズに、モーニングはAセットを2人前で。あとコールスローもプラスして』
見かけとは裏腹に甲高い声だった。朝からよく食う野郎だと内心呆れていると、男は店員にこう付け加えた。
『ミルクはなし、加糖ね。間違えないように気を付けなさい』
なにが“気を付けなさい”だこいつは。偉そうに。店員のことを召使いとでも思っているのだろうか。女性店員も普通に対応していたが、きっと内心では呆れているに違いない。
接客業をしていると、どうしてもこの男のような勘違いした客にエンカウントすることがある。まともに取り合っても仕方がないので、無の心でやり過ごす。表情も変えず、ロボットのように最低限の返事だけで。20年やっていればそれくらいのスルースキルは身に付くものだ。
心を乱すものからはそっと距離を置こう。俺はノイズキャンセリングイヤホンを装着し、音楽を再生した。
数十分後。会計をしようと席を立つと、横の男はちょうど店員に追加の注文をしているところだった。なんとなく内容が気になりイヤホンを外す。
『アイスコーヒーLLサイズおかわりで。また同じようにミルクなし、加糖ね。今度も間違えないように気を付けなさい』
一体どれだけ飲めば気が済むんだよ。
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