9月1日(日) つづき

何秒か保留音が続いた後、電話は再び繋がった。

『ああお待たせ。で、話なんだけど…』

『はい』

『異動の話なんだけどね…』

その時、エリアマネージャー(以下AM)が話し始めるのとほぼ同じタイミングで店内に応援ベルの音が響いた。レジの方に顔を向けると、アルバイト学生がすがるような目でこちらを見ている。その手前には何か資料のような紙を持ったお客様が1人。どうやら少々難しい問い合わせにあたってしまったようだ。混雑する日曜の夕方だが、この日はちょうど従業員が不足しており店内には自分とこのアルバイトしかいない。さすがにこれはフォローに行かざるをえないだろう。

『AMすいません、ちょーっとレジが込み入ってるようで…後ほどかけ直してもよいでしょうか?』

『あー、全然いいよ。それじゃあまた後で』

すいませんすいませんと繰り返しながら電話を切り、急いでレジへ向かう。いざ話を聞いてみると問い合わせ自体は全く難しいものではなかった。拍子抜けしながらもアルバイトに対応方法を教え、再び電話の元へ戻る。

さて、AMに電話をかけ直そうかしらと思ったのも束の間、そこからは時間のかかる問い合わせやレジフォローがやたらと相次ぎ、おちおち電話をかける暇さえ無くなってしまった。おまけに閉店前には大量の注文が入り、やっとの思いでレジ閉めまで済ます頃にはいつもの上がり時間を大幅に過ぎてしまっていた。

ヘトヘトに疲れた体で帰りの電車に乗り込む。結局電話をかけ直せなかったことを思い出し、AMに短い謝罪のLINEを送った。すぐに既読にはなったが、その日のうちに返信が返ってくることはなかった。


9月2日(月)

休日。

目を覚ましてスマホを確認したが、AMからの返信はいまだ無い。果たして電話の内容は何だったのだろう?AMは『異動の話』と確かに口にしていた。正式決定の報告なのか、それとも…。こりゃ店まで電話したほうがいいのかな、と思いつつ休みの日に仕事のやり取りをするのも億劫で、結局はいつも通り喫茶店へ向かった。

モーニングを注文してしばらくのんびり過ごし、スーパーで買い物をすませて部屋へ戻る。AMのことなどすっかり忘れて寝転がっていると、LINEの着信音が響いた。見るとAMの名前が表示されている。起き上がり、即座にメッセージを開く。

『お疲れ様です。
本社にも確認しましたが、どうやら破滅くんの異動は無くなったようです。
理由はやはり競合店が無くなることです。それによって客数も増え、売上げも上がるでしょう。破滅くんにはそれらに対応するため現在の売場の維持に専念してほしいとのこと。』

メッセージはそこで終わっていた。



『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!????』


隣人の存在も忘れて俺は絶叫した。

そして、その場でAMに返信を打った。
感情を叩きつけるように。

Screenshot_20240906_005405_LINE_1


実際のLINEの画面

こうして、ボクの異動は再び立ち消えになったのでした。


おわり 

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