破滅に向かって~書店員日記~

アラフォー独身書店員のブログです。 よろしくお願いいたします。

カテゴリ: 過去の記憶

長い夜がようやく終わりを告げようとしていた。

朝6時過ぎに家に帰り、速攻で浴室へ向かった。熱いシャワーを頭から浴びて身体中の汗を洗い流すと、ようやく人心地ついたような気がした。果たして昨日の出来事は現実だったんだろうか?まるで長い夢を見ていたような気がする。現実ならば、あのあとM君はどうなったのだろう。無事にゆいちゃんとカップル成立しただろうか?それとも…。

2人のその後が気にはなったが、今はそれよりも睡魔に勝てそうにない。幸い今日はバイトも休みで予定は真っ白だ。シャワーが終われば夕方まで寝てしまおうか。

それがいい!

そう思い浴室から出ると、洗面台に置いていた携帯がピカピカと明滅しているのが見えた。メールが届いているようだ。びしょ濡れのまま手に取り確認すると、送り主はM君だった。心臓が高鳴る。

ここに、答が書かれているのだろうか?一瞬躊躇ったのち、俺はメールを開いた。

『破滅くんへ
無事帰れた?昨日は色々気を遣わせて悪かったね。
あれからですが、ゆいちゃんは僕が破滅くんを無理やり帰らせたと勘違いして怒って帰ってしまいました。もちろん告白も失敗したよ。
結局、僕は1人です。』

『・・・・嘘だろ?』

二の句が継げず、俺はその場に立ち尽くしていた。
びしょ濡れの体も拭かず、チンポも放り出したままで。

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M君の部屋を出て携帯を見ると既に1時半になっていた。

3月の夜は凍えるほどに冷たかったが、暖房の効いた部屋でずっと毛布にくるまっていた体にはむしろ心地良い。味わったことのない緊張感から解放され、俺は清々しさすら感じていた。

それにしても…。物音一つしないアパート前の通りを見渡しながらため息をつく。一体ここから何キロ歩けばいいのだろう。タクシーはおろか通行人すらいない。観念して俺は駅までの道をとぼとぼと歩いた。

興奮していた頭も少しずつ冷静さを取り戻しつつあった。思ったことはただ一つ、『M君に申し訳なかった』、それだけだ。

あの時飲み会終わりですんなりと俺が帰っていれば、M君は思い描いていた通りに計画を実行出来たはずだったのに。わざわざ俺が寝ている横で告白なんてする必要なかったのに。

俺はなんてバカでガキなんだ。後悔が次々と浮かんで思わずその場に倒れこみそうになった。

寒さと疲れで何度も心が折れそうになりながら駅に着いた頃には既に3時半を回っていた。
コンビニで買ったホットコーヒーで暖を取ることを何度か繰り返して時間をやり過ごし、5時過ぎの始発で俺はようやく家に帰れたのだった。

つづく

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『ゆいちゃん、ずっと前から好きでした』

いよいよM君が真っ正面から勝負に出た。

“キターーー!!!”叫びだしたい衝動を堪えながら俺は毛布の中で目を見開く。同時に、初めてM君と会った1回生の春のことを思い出してもいた。

あの日、ガイダンスのために集められた教室でたまたま隣の席になったM君。愛媛から出てきて知り合いも誰1人おらず、まるで生まれたての小鹿のように君は震えていた。大人しくて女の子にも奥手だった君が大学生活を経て、好きな子に堂々と告白出来るまでに成長したのか。

4年も経てばどんな人でも変わる。顔つきだって、考え方すらあの頃とは違うのだろう。

さあ、どうなるんだ!?俺はゆいちゃんの次の言葉を待った。心臓は2人に聞こえるんじゃないか、と思うほどバクバク鳴っている。

『…ありがとう、嬉しいよ』

数秒の沈黙の後、ゆいちゃんは言った。

今現在2人がどんな表情をしているのか、毛布を被ったままの自分はうかがい知ることは出来ない。ただし、先程までより彼らの周辺の空気がグッと密度を増したような気がした。

『いや、ありがとうと言いたいのはこっちだから』
M君が返す。

『もう、怖い顔してるから何言い出すのかドキドキしたよー』

ゆいちゃんがそう言うと、緊張の糸が切れたのか2人はクスクス笑いだしたのだった。

そこからは何やら2人で囁き合っているようだったが、ボリュームを落としたのか毛布越しには聞き取れなくなってしまった。

もう限界だった。2人の濃密な空気に耐えられそうにない。さっきから囁き合いやがって、まさかこいつらこのままおっ始めるんじゃないだろうな?いい感じだし、ゆいちゃんもまんざらでもなさそうじゃないか。今すぐにでもリップ音が聞こえてくるんじゃねーか?!

もう無理!!一刻も早くここを出よう!!!

暖房と毛布に加え、体験したことのない緊張感で身体中が汗だくになっている。寝返りも打てずずっと腰が痛い。早くシャワーを浴びて汗もこの夜の記憶も全てを洗い流したい。

不快感が頂点に達したとき、誰かが部屋を出ていく音が聞こえた。そして廊下でパタリと扉が閉まる音がする。

どちらかがトイレに行ったか?思い切って毛布からそっと顔を出し薄目を開けると、部屋に残っていたのはM君のほうだった。

このタイミングしかない!

『あ、破滅君起きた?』こちらに気づいたM君が言った。 

『帰るわ』

それだけ小さく呟き足早に玄関に向かう。

『え?!いやいや、何で?バスないよ?駅までどうやって行くのさ?!』

『歩くからいい』

『いやいや、ここから何時間かかると思ってんのよ?!外めちゃくちゃ寒いよ!』

『大丈夫、大丈夫だから』

引き留めるM君を振り切り、俺はなるべく音が出ないように玄関の扉を閉めた。

次回、最終回!!(もうええっつの)

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ようやくM君のアパートにたどり着いた。

部屋に入り買ってきた酒やお菓子を適当に広げ、3人での家飲みが始まった。今となればそこで何を話したのかは全く覚えていない。ただし、アパートへと歩く道中で1つだけ決めていたことがあった。

寝てしまおう。

ある程度の時間が過ぎたところで酔いに任せて眠ってしまうのだ。そうすれば、M君も告白という当初の目的を問題なく遂行することが出来るだろう。そのまま朝まで眠り続け、目が覚めた頃には全てが終わっている。俺はそのまま何事も無かったように帰宅する。

もう、残された道はそれしかないだろう。

M君はゆいちゃんに告白出来てニッコリ、俺は気まずいシーンをスルー出来てニッコリ。我ながらパーフェクトな作戦じゃないか。やたら固いさきいかを咀嚼しながら俺は1人ほくそ笑んだ。

家飲みを始めて1時間ほどが経過した。時刻は既に0時を過ぎている。ゆいちゃんはM君のアパートのほど近くに下宿しているそうで、まだまだ帰る気配は無さそうだった。

そろそろ頃合いだと思った。『俺、なんか酔い回ってきたしちょっと横にならせてもらうわ…』さも自然な風を装って呟いた後、M君のベッドの縁に沿うように寝転がり、2人に背を向ける。

『大丈夫?』M君が駆け寄りさっと毛布をかけてくれた。小声で礼だけ伝え、頭からすっぽりとそれを被る。視界は完全に闇に包まれた。

これでいい。M君グッドラック、邪魔者は去るよ。何も聞かないから安心してミッションコンプリートしてくれ。このまま俺は眠るんだ、朝まで…。

・・・。

・・・・。

・・・・・。


もちろんこの状況で眠れるはずなどなかった。

むしろ緊張と興奮で頭はバッキバキに冴え渡っている。なんとか眠ろうと思えば思うほど意識は覚醒の度合いを強めていくのだった。

それでも寝返りを打つのも我慢して呼吸だけ繰り返していると、どうやら2人は俺が完全に寝付いたと思ったようだった。毛布越しに会話が聞こえてくる。

『破滅くん寝ちゃった?』
『そうみたいだね、だいぶ飲んでたみたいだし』

そこからはこちらを気遣ってか、2人はグッと声のトーンを落としたようだった。しばらく他愛もなさそうな話を続けた後、M君が言った。

『あのね、ちょっと渡したいものがあるんだけど』

ガサゴソと紙袋を漁るような音がする。

『え、何これ…』

どうやらM君がプレゼントを渡しているようだ。しばらくすると、『え、こんな高そうなの受け取れないよー』とゆいちゃんが言うのが分かった。

いよいよM君が勝負に出たのだ、俺は思った。

一体何をあげたのだろう?高そう、ということはアクセサリー、指輪とか?目を開けて確かめたい衝動を必死に抑えながら耳をそばだてていると、M君は言った。

『ゆいちゃん、ずっと前からあなたのことが好きでした』

※一部記憶違いがあったためセリフを修正した。


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コンビニで適当に酒やお菓子を買い込み、M君のアパートへと向かった。勢いで自分もビールを何本かカゴに放り込んだが、もちろん飲みたい気持ちは一切無い。

ふと見ると、前を歩くゆいちゃんが何かの鼻唄を歌っている。そのメロディーにはどことなく聞き覚えがあった。

『それスピッツじゃない?』

『よく分かったね!”冷たい頬”でした~』

ゆいちゃんが鼻唄を止めて答えた。『こないだカラオケでも歌ってたもんね』とM君がつぶやく。

そこからはしばらくスピッツの話題になった。ゆいちゃんは彼らの大ファンでライブにも何回も足を運んでいるという。アルバムは『フェイクファー』が一番のお気に入りだそうだ。M君は『ハチミツ』が好きだと言い、俺が『名前をつけてやる』が大傑作だと主張すると、「破滅君、渋いね」と二人は口々に言うのだった。

「いやいや、渋いかな~若い草野マサムネの才能が爆発してるのよ!」
先ほどまでの緊張感が和らいだようで、少し気分が楽になる。ヘラヘラと笑う一方で、この二人はどこまで親しいのだろうか、とも考えていた。ただの友達?いやでもM君が今日まさに告白しようと思っているくらいだ、ある程度の勝算はあるんじゃないのか?

つくづく自分は何にも知らないのだと思う。実際、ゆいちゃんとはゼミで何度か話したことがあるくらいでどんな人かもよく分かっていないのだ。きっと今日が終わればもう二度と会うこともないのだろう。

やはりここに自分がいることはどう考えても場違いなのだった。

M君の一世一代の告白を邪魔しないためにはどうすればいいのか?再び自問自答を繰り返しているうちに、ようやくアパートにたどり着いた。




次回、最終回!!
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↑これ、一応貼ってるけど何か意味あるんだろうか。

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