ようやくマッチングアプリを完全退会した。
有料会員を終了するだけでなく、データの一切も全て消去した。文字通りの『完全退会』だ。こういったアプリではお約束だが、退会の手続きは非常に分かりにくい仕様になっており、Googleで手順を検索しないと進められなかった。やっとのことで退会しアプリをアンインストールした頃には、もはや清々しささえ覚えてしまった。
最後にこのアプリを通して女性に会ったのは先月のことだ。
年末に相手のほうから『いいね!』が届き、一週間ほどメッセージのやりとりを経て会うことが決まったのだった。プロフィール欄に写真は添付されていたが、米粒ほどの大きさでどれだけ目を細めても判然としない。正直なところ、その時点であまりいい予感はしなかった。
それでも会うことに決めたのは一縷の望みに賭けたい気持ちがあったのかもしれない。
しかし、フタを開けるとそれまでにアプリで会った中で断トツに盛り上がらない結果となった。こんなにも話が弾まないことがあるのか、と呆然としてしまった。おそらくそれは向こうも同じ思いだっただろう。
一言で言うなら『合わない』、それに尽きると思う。
何を話しても、どんな話題をふっても、言葉は上滑りし、広がることもなく瞬く間に収束していった。きっとこちらの話題の選び方も良くなかったのだろうとは思う。だが、共通の趣味だったはずの音楽の話題を出しても流れは変わらなかった。
『私、ハンバートハンバートが何より好きで、もう一番ドンピシャなんです。あの世界観にほんと癒されてて。』
それは俺が世の中で一番嫌いなバンドだった。
その瞬間、俺は思った。
もう、やめよう。
マッチングアプリなんて完全に辞めて足を洗おう。
『じゃあ、行きましょうか。』
ハンガーからコートを取りながら俺は言った。時計を見ると会ってからまだ三十分ほどしか経っていない。それなのに随分と長い時間が流れたような気がしていた。相手のほうも同じ気持ちだったのだろう。素直にこちらの言うことに従い帰り支度を始める。
『ごちそうさまでした』
LINEの交換もせず店の前で別れると、女はあっという間に雑踏に紛れ見えなくなった。一人になった途端、とほうもない疲労感が肩にのしかかってくる。凍てつくような風が容赦なく吹き付けたけど、もうこのまま路上に倒れこんでしまいたいな、と思った。
有料会員を終了するだけでなく、データの一切も全て消去した。文字通りの『完全退会』だ。こういったアプリではお約束だが、退会の手続きは非常に分かりにくい仕様になっており、Googleで手順を検索しないと進められなかった。やっとのことで退会しアプリをアンインストールした頃には、もはや清々しささえ覚えてしまった。
最後にこのアプリを通して女性に会ったのは先月のことだ。
年末に相手のほうから『いいね!』が届き、一週間ほどメッセージのやりとりを経て会うことが決まったのだった。プロフィール欄に写真は添付されていたが、米粒ほどの大きさでどれだけ目を細めても判然としない。正直なところ、その時点であまりいい予感はしなかった。
それでも会うことに決めたのは一縷の望みに賭けたい気持ちがあったのかもしれない。
しかし、フタを開けるとそれまでにアプリで会った中で断トツに盛り上がらない結果となった。こんなにも話が弾まないことがあるのか、と呆然としてしまった。おそらくそれは向こうも同じ思いだっただろう。
一言で言うなら『合わない』、それに尽きると思う。
何を話しても、どんな話題をふっても、言葉は上滑りし、広がることもなく瞬く間に収束していった。きっとこちらの話題の選び方も良くなかったのだろうとは思う。だが、共通の趣味だったはずの音楽の話題を出しても流れは変わらなかった。
『私、ハンバートハンバートが何より好きで、もう一番ドンピシャなんです。あの世界観にほんと癒されてて。』
それは俺が世の中で一番嫌いなバンドだった。
その瞬間、俺は思った。
もう、やめよう。
マッチングアプリなんて完全に辞めて足を洗おう。
『じゃあ、行きましょうか。』
ハンガーからコートを取りながら俺は言った。時計を見ると会ってからまだ三十分ほどしか経っていない。それなのに随分と長い時間が流れたような気がしていた。相手のほうも同じ気持ちだったのだろう。素直にこちらの言うことに従い帰り支度を始める。
『ごちそうさまでした』
LINEの交換もせず店の前で別れると、女はあっという間に雑踏に紛れ見えなくなった。一人になった途端、とほうもない疲労感が肩にのしかかってくる。凍てつくような風が容赦なく吹き付けたけど、もうこのまま路上に倒れこんでしまいたいな、と思った。