破滅に向かって~書店員日記~

アラフォー独身書店員のブログです。 よろしくお願いいたします。

カテゴリ: 婚活

ようやくマッチングアプリを完全退会した。

有料会員を終了するだけでなく、データの一切も全て消去した。文字通りの『完全退会』だ。こういったアプリではお約束だが、退会の手続きは非常に分かりにくい仕様になっており、Googleで手順を検索しないと進められなかった。やっとのことで退会しアプリをアンインストールした頃には、もはや清々しささえ覚えてしまった。

最後にこのアプリを通して女性に会ったのは先月のことだ。

年末に相手のほうから『いいね!』が届き、一週間ほどメッセージのやりとりを経て会うことが決まったのだった。プロフィール欄に写真は添付されていたが、米粒ほどの大きさでどれだけ目を細めても判然としない。正直なところ、その時点であまりいい予感はしなかった。

それでも会うことに決めたのは一縷の望みに賭けたい気持ちがあったのかもしれない。

しかし、フタを開けるとそれまでにアプリで会った中で断トツに盛り上がらない結果となった。こんなにも話が弾まないことがあるのか、と呆然としてしまった。おそらくそれは向こうも同じ思いだっただろう。

一言で言うなら『合わない』、それに尽きると思う。

何を話しても、どんな話題をふっても、言葉は上滑りし、広がることもなく瞬く間に収束していった。きっとこちらの話題の選び方も良くなかったのだろうとは思う。だが、共通の趣味だったはずの音楽の話題を出しても流れは変わらなかった。

『私、ハンバートハンバートが何より好きで、もう一番ドンピシャなんです。あの世界観にほんと癒されてて。』

それは俺が世の中で一番嫌いなバンドだった。

その瞬間、俺は思った。

もう、やめよう。

マッチングアプリなんて完全に辞めて足を洗おう。

『じゃあ、行きましょうか。』

ハンガーからコートを取りながら俺は言った。時計を見ると会ってからまだ三十分ほどしか経っていない。それなのに随分と長い時間が流れたような気がしていた。相手のほうも同じ気持ちだったのだろう。素直にこちらの言うことに従い帰り支度を始める。

『ごちそうさまでした』

LINEの交換もせず店の前で別れると、女はあっという間に雑踏に紛れ見えなくなった。一人になった途端、とほうもない疲労感が肩にのしかかってくる。凍てつくような風が容赦なく吹き付けたけど、もうこのまま路上に倒れこんでしまいたいな、と思った。

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引っ張るほどの内容ではないのでサクッと。

偶然とは言え新年早々嫌なことを思い出してしまった。

あの時の激しい怒りが甦ってくる。きっとこの女はこちらを完全ブロックした後も何事も無かったように毎日を楽しく過ごしているのだろう。その影で傷ついた人間がいることも分からずに。あの日山崎ロックをガバガバ飲んでいたCの顔を思い出しまた腹が立ってくる。

ふと、こいつSNSでもやっていないのかな?と思った。唯一の手がかりといえば通っている◯◯学校だ。興味本位で検索をかけてみると、学校のツイッターアカウントが表示された。フォロワーは500人ほど。

ひょっとしたらこの中にあいつが紛れてるんじゃないか?それなら傑作だなと思い興味本位で確認してみることにする。スクロールさせていくと、著名な作家やライターたちの名前に混じって驚くほどあっさりとCのアカウントは見つかった。

なぜ分かったかというと、ヘッダーがLINEのものと全く同じだったからである。おまけに名前も本名だ。通っている学校の名前を初対面の人間に打ち明けたり、どれだけ警戒心が無いのだろう。

まあそのおかげでこうやってたどり着けてしまったわけだが。

『やっと会えたね。』
俺はつぶやきほくそ笑んだ。辻仁成が中山美穂と初めて会ったときに言ったものと同じセリフだが、意味合いは全く違っていた。

ざっとツイートを眺めてみる。読書がとにかく好きで自分でも小説を書いている、そう語っていた通り内容は読んだ本の感想がほとんどだった。特筆すべきところは何もない。もうこんな覗き見みたいなマネやめよう、過ぎたことに固執しても意味ないじゃないか、そう思いスマホをしまいかけた時、一つのツイートに目が留まった。

『去年前半は婚活を頑張っていたのですが、ストレスで調子も悪くなってしまいそこからは全部やめて好きなことに専念するようにしました!やっぱりそのほうが良い!!』

なんだこいつ、と思った。いくらストレスだったのかは知らないが、それで相手を即日ブロックしていい理由にはならないだろう。何より言葉もなくぶったぎられたこちらのストレスはどうなるのか。収まりかけた感情が再燃する。

アカウントを確認すると、どうやらDMは送れない設定にしているようだ。しばらく迷った後、俺は先程のツイートのリプ欄にコメントを書き入れた。


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送信出来たことを確認すると、俺はスマホを置いて浴室に向かった。

熱いシャワーを浴びながら思う。
俺は一体何をしているのだろうか。

送信直後の高揚感は早々に萎え、虚しさが身体中を包んでいた。あのリプを見てCは何かを思うのだろうか。いや、せいぜい『キンもーっ!!』などと叫ぶのが関の山だ。そしてまた今回も即ブロックして終わりだろう。それを確かめにいくことはもうしないし、今後あの女が何をつぶやこうがどうだっていい。

ただし、文章講座に通っているCに一度このブログを読んでアドバイスを貰いたいな、とは思った。


終わり。

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最近知ったのだが、LINEのトーク一覧画面からワード検索をすると、既に削除した人物のものまで表示されるようになっている。

以前友人がLINEで教えてくれた店を忘れてしまい、あれこれ言葉を入れて試している中で偶然発見した。

それは何年も前に職場から去っていった元社員のものだった。トーク履歴を開いてみる。退社していったその日にやりとりはきっちり終わっていた。もちろん今はどこで何をしているか全くわからない。わざわざ削除したのにまだちゃんとデータが残っていたのだと驚き、随分と懐かしい気持ちになってしまった。

もっと他の人のも見てみたいなと思い、検索する言葉を考えてみる。誰にでも使っているものがいいと思い、『ありがとう』と入れてみる。すると何人も削除した人たちが現れた。店の元スタッフ、いつの間にか連絡を取らなくなった昔の友達、婚活アプリで一度だけ会った人…みんな間違いなくもう一生会わないと断言出来るが、きっとどこかで元気にやっていることだろう。

ちょっとした感傷に浸っていると、その中の一つのアカウントに目が留まった。『あ、これ…。』

それは5月に婚活アプリを介して一度だけ会ったCのものだった。忘れもしない、一方的に酒を飲んでベロベロになった挙げ句、翌日にはLINEもアプリもブロックされた女だ。よっぽどこちらのことが嫌だったのか、断るのも面倒だったのか、理由も分からないまま完全シャットアウトされ、あの時の自分はほとほと途方にくれてしまった。宙ぶらりんになった感情は行き場を失い、結局は彼女の通っているという文章講座学校のホームページに苦情のメールを入れるというバカげた行動に出たのだった。

最近では思い出すこともすっかり無くなっていたが、削除したはずのアカウントを目にして再び怒りが込み上げてくるのを感じた。なぜここまで非常識なことが出来るのだろうか。こういったアプリでは日常茶飯事なのかもしれないが、少なくとも自分が会った人たちの中にはこんなことをする人間は他に1人もいなかった。

トーク画面を開いてみる。こちらが最後に送ったメッセージは半年以上たった今ももちろん未読のままだ。


続く








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8月13日(土)

昨日はブログを更新できなかった。

休日だったのだが朝から実家に帰る用事があり、とある場所で半日ほどを過ごした。詳述は避けるがとてもストレスの溜まる時間だった。

夕方からは盆休み中の友人と落ち合い飲みに行った。そこでストレスの反動からかしこたま飲んでしまい、解散して部屋に着いた途端にぶっ倒れるように寝てしまった。明け方近くに目が覚めて、取り敢えずシャワーだけ浴びて仕事に出かけ、帰宅し現在に至る次第だ。

おかげで午前中は二日酔いで頭が痛くて仕方がなかった。全く、いい年した中年が何をやっているのだろう。

部屋に着いてぶっ倒れる刹那、ぐらんぐらん回る天井を見ながらもうこんなの嫌だな、と心から思った。ついさっきまでバカげた話をして笑っていたのに、今は全てが虚しかった。誰かの待つ家に帰りたいな、と切実に思った。

5月の頭に『山崎ロックバカ飲み女』からいいねをもらって迷った末に再開したマッチングアプリ。3ヶ月の有料期間は先週で終了した。結局高い金を払っただけで何の成果も得られなかった。

マッチングした人はいるにはいた。先月頭に会う約束を取り付けて、いざ日程を決めましょうというところまで進んでいた。お相手は土日が休みだという。

シフトを確認すると自分が行けそうな候補日は2日ほどあった。それらを提案するも、残念ながら2日とも予定があるという。

『月末の土日ならどちらでもいいですよ』とお相手は言った。
今度はこちらが両日とも仕事だった。ことごとくすれ違う。仕方ないなあと思いつつ、主婦パートさんに無理を言って休みを変わってもらうことにした。自分は一度決まったシフトを変更するのはものすごく気がとがめる。罪悪感を感じながらも、嫌な顔ひとつせず休みを替わってくれた主婦パートさんに心から頭を下げた。それが7月上旬のこと。

さあここから月末まで長いなあ、まあやっと日も決まったんだしそこまでやりとり頑張るか!と萎えそうな気持ちを奮い立たせていたところ、7月中旬頃になってお相手のほうから新たなメッセージが届いた。

『すいません、コロナがひどくなってきたので落ち着くまで会うの延期出来ませんか?』

これで完全に気持ちが切れた。確かにコロナは急激に増えていたし、気になる人も多いだろう。お相手は何にも悪くない。

ただ、感染者が落ち着くまで様子を見て、その間メッセージで何とか繋ぎ、落ちついた頃にまた『そろそろどうでしょうか?』、などとお伺いを立てるような甲斐性はとてもじゃないが自分には残っていなかった。

『申し訳ありませんが、もうこれでやりとりを終わらせましょうか。』結局その旨をそのまま説明し、終わらせてしまったのだった。

ここで諦めずなんとかメッセージで繋いでいったらうまくいった可能性もあったかもしれない。数少ないチャンスをまた自分で潰してしまったのだった。

天井は回り続けている。薄れ行く意識の中、俺はもうずっと1人なんかなあ、と思いながら目を閉じた。

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Dさんとはじめましての挨拶をして、カフェまでの道を歩いた。ついさっき通った道を再び歩きつつ、 軽い雑談から始めてみる。

LINEで話題にしたことやお互いの仕事のことなど、取りあえず思い浮かぶ順に話をふった。それらに対してDさんからはポツポツと返事があるがそこで完結してしまい、上手く転がっていかない。『そうですねえ。』『○○です。』で終わってしまうのだ。やはりLINEで抱いた印象と同様で、向こうから逆質問などが来ることもない。

キャッチボールで例えるなら‥こちらが『休みの日は、何してますの~ん?!』とボールを投げるとする。
向こうは『Netflix見てますね~ん!!』スパーン!!!とボールを受けとるものの、その後一向にボールを投げ返さない感じだろうか。『あ、あれ~?投げてこないんでっか‥?』と仕方なくまたこちらから新たなボールを投げることになる。
『Netflixで、なに見てますの~ん?!』『韓流ドラマです!!』スパーン!!!

店に着くまでのたった数分間でかなり疲弊してしまった。今から席に座り改めてじっくり話し込まないといけないのか‥。その場から逃げ出したくなるような衝動にかられる。道路沿いを無言のまま歩くDさんのロングスカートがひらひらとなびいていた。その眩しいくらいのブルーに何秒か目を奪われる。今日は真夏日だ。

カフェに入り、冷たいドリンクを注文した。何組かのカップルが静かに話している。内装もBGMも好みの感じで、初対面の女性と来るにはバッチリだと思った。センスの無い自分にしては珍しく店のチョイスに成功したようだ。おまけに運ばれてきたアイスコーヒーも美味しかった。

盛り上がらない会話に気持ちが折れそうになっていたが、ここにきて俄然復活してきた。ここまで来たらやるしかない。今後どうなるか全く分からないが、今はこの時間を楽しもうじゃないか。別にはぁぶさぁぁぁぁぁ!と切られてもその時はその時だ。

気持ちを切り替え、そこからはDさんとの会話に全力を尽くした。こちらから質問し、ポツポツと返ってきた答を膨らませ、更に質問を重ねた。合間合間に自分のエピソードトークを交え、Dさんの返しに大袈裟に笑ってみせた。身振り手振りを交え話している最中、まるで今の自分はエディ・マーフィーのようじゃないか?とすら思えた。

そして、気がつくと二時間が経過していた。

アイスコーヒーは既に空になっていた。話し続けて喉がカラカラだ。さすがにここまで話したらもう充分だろう。長居して店の人にも申し訳ないし、会計を済ませ外に出た。

Dさんとは駅で別れた。ポツリポツリとしか話さなかったDさんだが、終盤は多少口数が増えていたような気がする。ただそれでも盛り上っているとはほど遠い状況だったと思う。沈黙も度々生じた。自分なりに頑張ったがやはり厳しかったか。何よりめっちゃくちゃに疲れた。確かに美人だったが、気を使いすぎて落ち着かなくて仕方がない。正直、タイプが合わないとしか思えなかった。

ちょっとこれは続けていくのは厳しいな。帰りの電車でひとまず『ありがとうございました』のLINEを送ったが、それに対する返信はやはり『こちらこそありがとうございました』の一言。それを見てもうこれ以上のやりとりはやめておこうと思った。

そして数日後。

職場でKさんに会うと、開口一番『破滅さん!Dさん、破滅さんのこと好印象だったらしくぜひまた会いたいって友達に言ってたそうですよ!!』と言う。

『はぁ?!』

本当かあ?いや、全くそんな風には見えなかったんですけど・・。

LINEでも実際に会っても素っ気ない一言返事。それでは気持ちは伝わるわけないよ。




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