破滅に向かって~書店員日記~

アラフォー独身書店員のブログです。 よろしくお願いいたします。

カテゴリ: 書店の現場から

2024年3月の書店ニュース!!

①『おしりたんてい』の新作、遂に発売。

一世風靡したあの『おしりたんてい』新作がようやく出た!長かった、本当に長かった。前作『おしりたんていのこい』が2020年の秋だったから、実に3年半ぶりの新作だ。それまではコンスタントに出ていたのに、一体何があったのだろう?

スランプ?体調不良?そのあたりは一切明らかにされていないが、新たな作品を送り届けてくれたその事実だけで充分じゃないか。

おかえり、おしりたんてい!

ただ、3年半の沈黙はあまりに長すぎた。発売して数日経つが全く話題になっていないのだ。以前なら発売したその日からボコスカ売れていったのに。当時楽しみに読んでいたチビッ子たちももう小学生になって、すっかり興味は別のものに移ってしまったのだろう。

まあそれは仕方がない。このまま忘れ去られてしまうのか?それともまた新たな逆襲が始まるのか?おしりたんていから目が離せない!

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※今気がついたけど表紙こわっ!拷問?一体何があったの?

②芥川賞掲載の『文藝春秋』、全然売れない。

これも時代の流れか。先月10日に芥川賞受賞作が全文掲載された『文藝春秋』が発売されたのだが、全くと言っていいほど跳ねなかった。入り口平台にデデンと大展開してもピクリともせず。ひょっとしたら普段の号より売れてないんじゃねーか?と思うほどだ。今も大量に在庫は残っています。一昔前なら爆発的に売れていたのだがなあ。

もう誰も芥川賞のことなんて気にしていない。

受賞作が決まった日も『NEWS ZERO』あたりで数十秒紹介して、それでおしまい。

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③書店、つぶれまくる。

えげつない勢いで本屋は無くなっていってます。近隣だけでもこの一年だけでどれだけ潰れたか。はっきり言って今自分が働いている店もいつまであるか分からないくらいです。

皆さん、よかったら書店に寄ってみてください。

面白いですよ。限られた時間の中で従業員たちは一生懸命売場作ってますよ。ふらっと回るだけでも面白そうな本がきっと見つかりますよ。

Amazonよりも間違いなく面白いよ。

おわり

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みんな、はじめまして!!

ボクの名前は『ブッ君』!本屋さんに住む妖精さ!!

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ボクにはひとつ特技があってネ!
それは本屋さんではたらく人たちの心の声が読めることなんだ!!
さあ、今日も頑張る書店員さんの心の声を覗き見していこうかナ~!!

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お、さっそくばりばり頑張ってる書店員さんみーつけた!!
優しそうに微笑んでいるお姉さん店員だねェ~!
一体どんなことを考えながら働いているのカナ~??
気になるねぇ~。さーてさて、心の声を覗いてみましょうかネ~!!

おお、きこえてきたゾォ~~…!!


『はぁ~…、品出しクッソたるいなぁ…。これマジで帰るまでにおわんの?ウンザリやでホンマ。今日だってレジのやつとワイしかおらんやないかい。最低時給上がったのはええけどそのぶん時間も減らされてええことあらへんわ。結果的に負担増えてるやんけクソッタレが。はあ~クッソたるい。たるすぎ。もう全部放り捨てて帰って寝ときたいわほんっま!

しかもさっきからあそこのジジイ全く動かんやんけ。マジでいつまで立ち読みしとんねん。そこどかんかったらワイが出されへんやろ?邪魔やのお。ほんっっま邪魔。これ新刊やからはよ出したいのに全然どいてくれへんなあ。さっきから背中に念送っとるんやけどわからんかぁ?!気づかんかぁ?!!オーイコルァッッッ!!!』

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『もう限界やろホンマ!最低限の人数で品出しこなして問い合わせや注文さばいて!毎日毎日吐きそうやで!ああ畜生が、こんなもんやってられるかい!けど他に出来ることもワイにはあらへんから働き続けなしゃーないやんけ!

てかさっきのジジイ一体いつになったらそこどくんや?!一体いつまでここで時間潰すんや?!お前昨日も来とったやろ?!!その本全部読むつもりかぁっ?!!いい加減にせえよマジで。

今からワイが10数えるからな。その間に去ねや。マジで去ね。そうせんと殺すからな。必ず殺すぞ!必ずや!!行くぞ、1、にぃ、さんッッッ…』


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ヒ、ヒィィィィィッッッ!!!!!

あの優しそうなお姉さんがこんなこと考えながら働いているなんて~~~~!!!!!!

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やあ、ボクの名前は『ブッ君』!!

書店に住む妖精さ!!

みんな、本屋さんに行くときは目的の本を買ったらすみやかに店から去ろうぜ!!!

そうしないと、殺されちゃうよ!!!


※全てフィクションです。

※書店員は皆真摯に頑張っている素敵な人たちばかりです。
上記の光景はブッ君が見た幻想に間違いありません。

松下さんと仲良くなってから一年ほどが過ぎた。

その間どれだけの話をしただろうか。内容はもうほとんど忘れてしまったが、音楽や恋愛の話が多かった気がする。松下さんは打ち解けると自身のプライベートなこともあけすけに語る人だった。

特に印象に残っているのは松下さんの羨ましいくらいのモテっぷりだ。それまでの人生で彼女が途切れたことは殆どなく、二股三股は当たり前。それに加えて常時セフレが複数人いた。前回書いた先輩社員『フクモトさん』もその一人だと聞いたときは思わず声を上げて驚いてしまったほどだ。

なぜならフクモトさんは職場では松下さんに素っ気ない態度をとることが多かったから。何も知らない自分などはむしろ嫌っているのだとすら思っていた。今思えば、周囲に勘づかれないようあえてそうしていたのだろう。

時々松下さんとフクモトさんが早番上がりに二人で帰っていくことがあった。そんな時は大抵一緒に夕飯に行き、そのまま職場近くのラブホテルにしけこむのが定番だったという。

『その日は朝からワクワクしてな、バックルームでフワーとおっぱい触ったりするねん。誰か突然入ってきたらどうしようか?なんて思いながらな。そういうハラハラ感がよりいっそう興奮すんのよ。』

嬉しそうにそうぶっちゃける松下さんを思い出す。(てかこいつら職場で何しとんねん)

※注 念のため断っておくが、書店員は決してこんな人たちばかりではありません。

そんなある日のこと。いつものように松下さんの車に乗せてもらいあれこれ話していた。

当時自分には気になっている女性がいた。勇気を出して食事に誘ってOKをもらい、約束の日が数日後に迫っていた。うまく話せるのだろうか?ちゃんと間が持つだろうか?なんとも落ち着かず、誰かに話を聞いてもらいたかった。そして、それにはやはり松下さんが相応しいと思えた。

『実は、数日後気になる女性と会うことになってまして…』

おずおずと切り出すと、一瞬で松下さんの顔が輝いた。

『おー、ええやんけ!破滅がそういうこと話してくれるの珍しいやん!』

松下さんは車を適当な路肩に止めてシートに深く体を沈めた。そこからは質問責めだ。どんな人でどんな関係なのか?顔は誰に似ているのか?

一つずつ答えていくと、ふいにこう聞かれた。

『で、メシ行ってどうすんの?』

『え?ご飯食べてそれで帰ろうと思ってますけど…』

『はあ?お前本気で言うてんのか?』

一気に語気が強くなる。

『え、まだ初回なんで…』

『いい加減にせえよお前。中学生男子ちゃうねんから、メシ食ってはいさよならーってふざけてんのか!』

『え?そうですかね…?』

ここまで怒られるとは思わず、焦って次の言葉が出てこない。

こちらのオドオドした様子に業を煮やしたのか、松下さんは幾分か声のトーンを落としてこう言った。

『ええか破滅、よう聞いとけ。女なんて強引にグワー触ればなんとかなるんや。』

『グワー触る…?』

『そうや、グワー触るねん。メシとかどうでもええのよ。とりあえすグワー触ったれや。俺はいつでもそうやって成功してきたわ。』

言葉が省略されすぎてよく分からない。

『グワー触るって、どういうタイミングで触るんですか?』

『タイミングなんてどこでもええねん。例えば待ち合わせで女がこっちに向かってきおるやろ?お待たせ~なんて手をふりながらきおるわ。その時にもうグワー触ったったらええ。揉みしだいたれや。』

『そんなこと出来るわけないでしょう!!』

『冗談に決まってるやんけ。』クスリともせずに松下さんは続ける。『まあそやなあ、メシ食って店出るやろ?そしたら適当な路地裏見つけてそこに誘い込んでグワー!!や。二人でメシ行くのOKもらったんやろ?それならもう八割がたいけるで。』

『そんなの無理ですよ…』

思わず泣きそうになってしまう。当時俺はまだ童貞だった。

松下さんはふっと静かに笑うと優しい声で言った。

『好き勝手言うて悪かったな。まあお前のペースでええんちゃう。応援してるで、俺は。』

『あ、ありがとうございます。』

『あとな、グワー触れって言うたけどほんまに「グワー」言いながら触ったらあかんで。』

『分かってますよそんなこと。』

松下さんは時々ものすごくつまらないことを言った。


あの夜からどれだけの歳月が流れただろうか。

今になって俺は思う。松下さんとの日々、あれは正に青春だったのだと。


数ヵ月後、松下さんはここには書けない不祥事を起こして会社をクビになり、俺のもとから永遠に姿を消した。


おわり

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入社して2ヶ月ほどたった頃のこと。

当初はコミック担当の松下さんにつきっきりになっていたが、その頃になると別の先輩の元で他分野について教わっていた。コミックとは売れ方も全く違っており、書店員という仕事の奥深さを少しずつ理解し始めていた。

必然的に松下さんと接することは少なくなった。例の素っ気ない態度が変わることは残念ながらなかったが、分からないことを聞くと無愛想ながらもしっかり教えてくれて感謝していた。

そんなある日のことだ。

早番勤務が終わったあと、雑誌売場で発売されたばかりの『ロッキング・オン』を立ち読みしていると、たまたま通りかかった松下さんが話しかけてきた。

『お前、ロックとか好きなん?』
相変わらずの仏頂面だ。

『え、あ、はい…。結構好きですね。』

『好きなバンドとかあんのか?』

『そうですね…。レディオヘッドです。』

なぜか松下さんの態度に切迫したものを感じた。気になることでもあるのだろうか?ビクビクしながら答えると松下さんの態度が一変した。

『なんや、お前それはよ言えや!俺もめちゃくちゃ聴いとんねんぞ!』

さっきまでの仏頂面は消え失せ、口元には笑みすら浮かんでいる。聞くと、松下さんはU.K.ロックが好きで特にレディオヘッドは全てのバンドの中で一番のフェイバリットということだった。

そんなことは全く知らなかった。コミック売場で一緒に働いている時は品だしに精一杯で趣味の話などする暇もなかったし、あったとしても松下さんのムッツリした空気の前では何も話せなかっただろう。

態度のあまりの変わりようにやや戸惑っていると、松下さんはそんなこちらの様子など気にも留めず言った。

『俺ももうすぐあがりやからメシ付き合えや。この店音楽好きなやつおらんから嬉しいわ!』

『は、はい…。』

どうやら俺は気に入られたらしい。

それからは退勤時間が一緒の時など、しょっちゅう色んな店に連れていってもらった。U.K.ロックを大音量でかけながら車を運転する松下さんは、店で働いている時よりもずっと雄弁で、表情豊かで、こちらの言うことによく笑う人だった。

確か自分より6つ上だっただろうか。次第に自分の中では、『おっかない先輩』から『頼れるお兄ちゃん』に印象は180℃変わってしまった。上京してからは滅多に地元に帰ってこなくなった実の兄よりも、当時は親しみを感じていたかもしれない。

つづく

次回最終回!
『突然の別れ』の巻!!

(あー疲れた。これほんま誰が最後まで読んでるねん…)

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そんな感じで、入社して1ヶ月あたりは松下さんとコミック売場で作業をすることが多かった。

毎日届く山のような新刊や注文品にひたすらシュリンクをかけ、品だしをしているとそれだけで1日の大半は終わってしまう。中途半端に残したまま『お先でした~』などと帰ることなど出来るわけもなく、閉店まで残ることもざらにあった。

もちろんサービス残業である。当時はそのあたりが今よりずっと緩かった。

困ったのは松下さんのサボり癖だ。こちらが必死こいて品だしの山を片付けている間も、隙を見てはレジのバイトの女の子にちょっかいをかけに行ってしまうのだ。そんな時の松下さんは、自分と話す時の仏頂面が嘘のようにデレデレしていた。

恨めしそうな顔をしていたのがバレたのだろうか、先輩女性社員『フクモトさん』がふいに近づいて言った。

『困ったもんだよねー松下さん。破滅クンだけに押し付けて。』

『あー、いえいえ…』

『あの人いつもああなんだよ。可愛いアルバイトが入ってくるとすぐベタベタしちゃって。で、すぐ自分の物にしちゃうの。』

『へぇー…そうなんですか』

なんとなくフクモトさんが面白くなさそうに見えたのは気のせいだろうか?どう返事すればいいのか分からず、俺はただ曖昧な笑みを浮かべることしか出来なかった。もう一度レジのほうを見ると、松下さんは何がおかしいのかバイトの子が言うことに手を叩いて笑っている。

『仕事しろっつーの、あのバカ』

フクモトさんがボソリと吐き捨てた。

後で分かったことだが、松下さんはこの時話していたアルバイトを1ヶ月も経たないうちに『自分の物』にしていた。

そして、フクモトさんは松下さんの数年来のセフレだった。

(ちなみにフクモトさんはこのシリーズの①②に出てた人と同一人物である)

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