7月4日(火)

休日。

前日までの連勤の疲れからか、朝喫茶店とスーパーに行った以外はほとんど部屋で横になっていた。このひどい暑さも相まって何もする気になれない。ただただダラダラとスマホをいじり続けていた。

こんなことではいけない。何とか体を起こし、24時間ブログのネタ出しを始める。まっさらのノートを広げ、ペンを片手にしばらく考えるも、こんな時に限って何一つ良いアイデアは出てこないのだった。

結局、新品のノートに『第2回独身カテゴリーブログレビュー“お前ら全員メッタ切りじゃスペシャル”』と書いただけでネタ出し会議は終了した。

気がつくと外はすっかり暗くなっていた。今日も何一つ有意義なことは出来ないまま休日が終わっていく。一体俺は何をやっているんだろう。もう24時間ブログなんて無茶なことは辞めてしまおう、どうせ誰も見てねーし。はーしんど…。腹減ったなあ。

ふとスマホをチェックすると、ブログにコメントが届いていた。この過疎ブログにコメントなんて滅多にないことだ。一体何が書かれてるんだろう？と恐る恐る開くと、24時間ブログを応援する内容だった。

嬉しかった。わざわざこの過疎ブログを見つけて読んでくれている人がどこかにいる。この方だけではない。今までだって、好意的なコメントを書いてくれる人はいた。どれだけ更新を重ねてもいまだランキングは一切上がらない弱小ブログだが、そんな心優しい人たちの拍手やコメントがどれだけ励みになったか。

やはりこの方々のためにも24時間ブログはやり通さなければならないのだ。決意を新たに俺はもう一度ノートに向かった。

6月29日(木)その②

連休2日目。

夕方から久々に地元の友人『モリオ(仮名)』と落ち合い飲みに行った。モリオが指定したのはコロナ前にはよく一緒に行っていた安居酒屋だった。乾杯し、まずはいつも通りお互いの近況報告となる。

数ヶ月ぶりに会うモリオはあからさまに疲れていた。髪は無造作に伸び顔にも随分肉が付いたようだ。心なしか吹き出物も増えたように見える。何でも勤務先のホテルのオーナーが変わり、状況が一変してしまったのだという。

コロナ禍が落ち着きジリ貧だった宿泊客も戻りつつある。だが、いまだ予算は達成出来ない月が続いており、オーナーから毎日どやされているそうだ。

『マジでしんどいわ、今。改善策を出せ出せって毎日言われてな。おまけに人手不足で早朝にレストランの手伝いまでしてるから。終わってる。』そう力なくぼやくと、モリオは残っていた巨峰チューハイを一気に飲み下した。

破滅はどうなの？と聞かれてこちらも近況を伝える。

最重要メンバーの退職が決まり8月からはろくに連休も取れそうにないこと、後任は募集しているが一向に応募はないこと、婚活は結局何一つうまくいかなったこと…。

お互い境遇は全く違うが、景気のいい話は何一つなさそうだった。

『ただ、来月やろうとしてることはある』

そこで俺は24時間ブログのことをかいつまんで話した。モリオは黙って聞いていたが、こちらが話し終わると『でも、ブログって一個一個の文章量結構多いんだろ？ほんとに24連続とか可能なの？』と言った。

『大丈夫、ネタが切れたら一言とかで済ませるから。“ケチな男は本当無理ーーー！！”とか』

『ん…何それ？』

『知らんのかよ。俺の所属してるカテゴリーで不動の１位をキープしている伝説的人物よ。１年以上更新がないのに一切ランキング落ちないからな。その人の最後の叫びがこれ。“ケチな男は本当無理ーーー！！”』

通りかかった店員がビクッとこちらを見た。気付かないうちに声のボリュームが上がってしまったようだ。

『まあそれはともかく、ほんとにそのランキングは毎日神メンバー達がしのぎを削ってるわけよ。今日なんか“うさ子”と“ぶらり山谷”が2位を巡ってデッドヒートを繰り広げてたからな。俺にとっては全盛期のジャンプの連載陣くらい神がかった顔ぶれだわ』

話しているうちにボルテージが高まっていくのを感じる。しかし、こちらが興奮気味にまくしたてるほどモリオの顔は白けていくように見えた。

『ふーん…まあよく分からんけどそんな強いメンバーにほんとに勝てる可能性あんの？なんにせよ、熱中出来るものがあるならいいんじゃない』

モリオはそれだけ言うと財布を取り出し立ち上がった。『ま、今日はそろそろ行こうか。明日も朝からレストランだから、俺』

見下ろす彼の目に哀れみの色が浮かんでいるように感じたのは、こちらの気のせいだろうか。

6月29日(木)

連休2日目。

いつもの喫茶店でまた24時間連続ブログのことに思いを巡らせていた。よくよく考えてみると、24時間更新自体はまずまず珍しいとは思う。しかし書く内容はいつも通りでいいのだろうか？それだとただ普通のブログが24個並ぶだけのものになってしまうはずだ。正直、受け手にとってなんの面白みもないだろう。

じゃあ一貫性を持たせればいいのだろうか？例えば1つの話題を24回に分けて書く、コンセプトアルバムならぬ『コンセプトブログ』だ。そこまで引っ張るならとりわけ読む人の興味を引くようなネタが必要だが、全く思い付かない。

一体どうすればいいのか。どれだけ考えてもいいアイデアは出そうにない。アイスコーヒーの氷は手付かずのままとっくに溶けてしまっていた。

いつもの感じのブログを24個敷き詰める、まあそれでもいいとは思う。ただもう一捻り何か出来ないだろうか…？すっかり水っぽくなったコーヒーを一気に飲み干し、伝票を掴んだ。まあ、別に何でもいいか。どうせ誰も読んでいない相変わらずの過疎ブログだ。たとえやりきったとしても大して訪問者は増えず、翌日のランキングで無様に負けを晒すのだから。

『また不器用に逆らって　負ける』

syrup16g の一節が頭をよぎった。

そうだよ、どれだけあがこうが神メンバー様には永遠に勝てやしませんよ。分かってるんだよ、そんなことは。

一体俺は何をやっているのだろう。婚活もほっぽりだして、1円にもならないブログに情熱を燃やして。

いつの間にブログが人生の重要な位置を占めている。それがいいことなのか悪いことなのか、もう自分にはよく分からない。

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